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長崎家庭裁判所 昭和56年(少ハ)1号 決定

少年 R・M子(昭三七・五・二二生)

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の理由の要旨は、少年は昭和五五年五月一九日中等少年院送致決定により筑紫少女苑に収容され、同年一〇月二一日仮退院したものであるが、仮退院後昭和五六年二月まで長崎市内の工務店に事務員として働き、以後家事の手伝いなどをしてきたけれども、その間同年二月七日及び一〇日の両日無断外泊してA、Bらと性交渉を持つたほか三月二一日から四月初にかけて女友達と一緒に家を出て行きずりの男性に声をかけられ、同人宅やホテルに泊つて性交渉を持ち、更には五月初ころ及び六月一四日の二度にわたり暴力団組員とモーテルに泊つて性交渉を持つなど再三にわたつて遵守事項に違反し、このまま放置すれば今後再び非行を犯す危険性が極めて強く、保護者も少年の保護に自信を失つている現状では在宅による保護観察を継続していくことは困難であり、少年を速やかに少年院に戻して収容し矯正教育を施す必要があるというものである。

申請記録、当庁調査官の調査報告書によればおよそ次のような事実を認めることができる。

少年は仮退院に際して母親から、養父と母親が離婚し、現在Cと内縁関係にあることを聞かされてシヨツクを受け、初対面のCに対する少年の印象は必らずしも良いものではなかつた。母親やCとの共同生活の中で母親と内縁の夫との生活の実体をみせつけられる一方で自己が無視され、家庭内における自己の立場が失われていくのを感じた少年は次第に家庭から離反していくようになり、その後の経過は概ね申請理由のとおりであつて遵守事項に違反していることも否定できないところである。

ところで少年に対しては昭和五六年八月六日在宅試験観察に付し併せてその補導をD子(○○寺住職)に委託し、爾来四ヶ月間にわたりその経過を観てきたところによると、少年も委託先での生活に馴れるに従つて次第に落着きを取りもどし、家事手伝や里子として預けられている児童の世話に没頭し、働くことへの意欲を持つて毎日を充実した気持で過しており、本件申請の理由の一つに挙げられたEとの関係についてもこれまでとは異つた客観的な立場でこれを反省し、交際を再開する意思はない。もつとも母親やその内縁の夫に対する感情のわだかまりは未だ解消したわけではなく、今後も実家に戻つて生活を共にする意思はないと述べているところから今ただちに帰宅させる状況には至つていないが、少年自身は許されるならば今後当分の間委託先を生活の場として働きながら自立の途を拓きたいとの希望を有している。幸いにも委託先の同意も得ていることでもあり、保護観察所の適切な個別指導が行なわれるならば在宅処遇によつて少年の更生は十分可能であると思われる。したがつて少年を戻し収容する必要はないものと認め主文のとおり決定する。

(裁判官 松信尚章)

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